052.2 レッスン 1
Certificate: |
Open Source Essentials |
---|---|
Version: |
1.0 |
Topic: |
052 オープン ソース ソフトウェア ライセンス |
Objective: |
052.2 コピーレフト ソフトウェア ライセンス |
Lesson: |
1 of 1 |
はじめに
ソフトウェアを使うにも開発するにもライセンスが重要であることは前のレッスンで説明しました。フリーソフトウェアは、最初からライセンスに対して新しいアプローチを取っています。ソフトウェアを制約なしに利用し協力して開発するための条件が、実効的な保護が実施できるように法的定義されています。
著作権法は、世界中の法体系で深く根を下ろしていますから、著作権法に疑問を呈して別の法律に取り替えようとするのは現実的ではありません。こうした認識の下、ソフトウェア開発者は、1980年代の段階で、著作権法の規制を尊重しつつ、「自由」の原則を強調する新しい規制で補いました。それが コピーレフト という考え方です。
コピーレフトとGPL(GNU General Public License)
リチャード・ストールマンは、MITの開発者であった1983年に、「自由な」オペレーティングシステム(OS)を開発しようと、GNUプロジェクト を開始しました。このプロジェクトで開発したコードを営利企業に持っていかれて不自由にされてしまわないように、法的に保護しなければならないことがすぐに明らかになりました。
そこで、ストールマンは、1985年に、フリーソフトウェア財団(Free Sofware Foundation) を創立しました。「フリーソフトウェアファウンデーション(FSF)は、コンピュータのユーザの自由を促進する世界的なミッションを持つ非営利団体です。わたしたちは、すべてのソフトウェアユーザの権利を守ります。」とFSFのWebサイト( 日本語版 )に書かれています。
適用される法律(特に著作権法)を尊重しつつ、自由の概念を法律上明確に位置づけることが、このミッションを達成するための鍵になります。この試みが1989年に GPLv1(GNU General Public License) として結実しました。このライセンスおよびストールマンが書いたたくさんの記事(1992年に書かれた「自由ソフトウェアとは?」など)により、自由ソフトウェア開発者(自由ソフトウェア運動の担い手)の目標と価値観が明らかになりました。
「自由ソフトウェアとは?」 でストールマンが定式化した「四つの基本的な自由」が、今なお自由ソフトウェア運動の核になっています。当初は3項目でしたが、後に最も基本的と考えられる0項が追加されました。
どんな目的に対しても、プログラムを望むままに実行する自由 (第零の自由)。
プログラムがどのように動作しているか研究し、必要に応じて改造する自由 (第一の自由)。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。
ほかの人を助けられるよう、コピーを再配布する自由 (第二の自由)。
改変した版を他に配布する自由 (第三の自由)。これにより、変更がコミュニティ全体にとって利益となる機会を提供できます。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。
自由ソフトウェアとは?
制約を前面に押し出す商用製品のライセンスとは異なり、フリーソフトウェアはユーザーと開発者の自由を最大化することを目標にしています。
GPLの前文では次のように要約されています(訳注:GPLは、八田真行氏によって 「GNU 一般公衆利用許諾書」 というタイトルで日本語に翻訳されています)。
私たちが用意した一般公衆利用許諾書の数々は、フリーソフトウェアのコピーを頒布する(そして希望によっては頒布に際して手数料を要求する)自由をあなたに保証すべく設計されています。すなわち、ソースコードを受領するか、望めばそれを手に入れられるということ、ソフトウェアを変更し、その一部を新たなフリープログラムで利用することができるということ、そしてこうしたことが可能であることをあなたが知っているということが保証されるのです。
version 1
GPLライセンスのソフトウェアは、(ソースコードがオープンにされていて入手可能なので)制約なしに、使用、頒布、改変でき、改変版の頒布もできます。料金を徴収してソフトウェアを販売することもできます( 日本語版「自由ソフトウェアの販売」 )。
実際のところわたしたちは、自由ソフトウェアを再配布する人々に、お金を望むだけ、あるいはできるだけ課すことを推奨しています。もし、あるライセンスがユーザがコピーを作って販売することを許していない場合、これは不自由なライセンスです。 ..(一部省略)..自由なプログラムは無償で配布されることもあれば、相当な値段がついて配布されることもあります。同じプログラムが違う方法、異なる場所から入手可能なこともよくあります。利用者は使用については自由を有するので、プログラムは値段とは関係無しに自由であると言えるのです。
自由ソフトウェアの販売
ここまで自由だとしたら、ライセンスは例えばプロプライエタリな製品に組み込まれることなどから、ソフトウェアをどのように守るのでしょうか。
ここで先ほど申し上げたコピーレフト原則の出番となります。「コピーレフト」という言葉は用いられていませんが、GPLv1からこの原則が盛り込まれています。(訳注: GPLv2 の当該箇所は、GPLv1とまったく同じです。)
あなたは『プログラム』を、この契約書において明確に提示された行為を除き複製や改変、サブライセンス、あるいは頒布してはならない。
version 1 & 2
つまり、こうした自由は、同じ自由を維持する限り認められるということです。
コピーレフトは、自由を保証するだけでなく、ユーザーがほかの人にも自由を与えることを要求します。これを実現するために、GPLv1以来のコピーレフトライセンスのソフトウェアは、同じ条件で、つまり同じライセンスで公開される限りにおいて、改変や再頒布が許されると規定されています。
自由ソフトウェアの理念、すなわちソフトウェアの共同使用と(改変版などの)さらなる共同開発は、(ソフトウェアを独占的に販売したいといった)個々人が抱くかもしれない願望に優先します。自由を享受する者は、他者にも自由を与えなければなりません。コピーレフトライセンスは、それゆえ、互恵的だと言われることがあります。 GPLv2 こうしたソフトウェアライセンスに対するまったく新しいアプローチは、GPLv1の段階で法的に問題なく適用できることが証明されています。そのため、現代のIT市場が発展してきたこの約40年の間で、大きな改訂は2回しか行われていません。
GPLv2とGPLv3
1991年、フリーソフトウェア財団は、GNU General Public License Verrsion 2 (日本語参考訳) を発表しました。このライセンスは、長年にわたり、フリーソフトウェアプロジェクトの最もポピュラーなライセンスになっています。例えば、Linuxオペレーティングシステムのコア部分は、現在でもGPLv2ライセンスです。
GPLv2は、GPLv1よりも曖昧さを排除して正確な定義を行うために作られました。例えば、GPLv2では、「ソースコード」が何を意味するのか詳細に述べられています。
また、GPLv2の第7条には、ソフトウェアにおける自由の原則を絶対的なものとして定め、ソフトウェアに不自由な部分を取り込むといった妥協を許さない、興味深く重要な条文が追加されました。
もしこの契約書の下であなたに課せられた責任と他の関連する責任を同時に満たすような形で頒布できないならば、結果としてあなたは『プログラム』を頒布することが全くできないということである。例えば特許ライセンスが、あなたから直接間接を問わずコピーを受け取った人が誰でも『プログラム』を使用料無料で再頒布することを認めていない場合、あなたがその制約とこの契約書を両方とも満たすには『プログラム』の頒布を完全に中止するしかないだろう。
その16年後の2007年に入ってから、他のFOSSライセンスとの互換性問題や、インターネットを通じたソフトウェアサービスの提供といった技術的革新を考慮し、FSFはGPLの新しいバージョン( 日本語参考訳 )を公表しました。それでも、GPLライセンスの中核部分は変わっておらず、疑義をなくすために詳細を追加しただけです。追加された部分を見てみましょう。
GPLv2ではソフトウェアの提供を頒布(distribution)と総称していましたが、GPLv3では普及(propagation)と伝達(conveying)という2つの新しい用語を導入しました。その主な理由は、「頒布(distribution)」という用語は世界中の著作権法で規定されており、曖昧さや矛盾を避けるために、GPLv3では新しい用語を導入したということです。
ある作品の「普及」(propagate)とは、コンピュータ上で実行すること、または私的なコピーを改変することを除き、適用可能な『コピーライト』法規の下で許可無く行うと、権利侵害として、直接的、あるいは間接的にあなたが責任を問われる何らかの行為を意味する。普及には、複製、頒布(改変の有無を問わない)、公衆への利用可能化が含まれ、またいくつかの国々では他の活動も含まれる可能性がある。
ある作品の「伝達」(convey)とは、第三者がコピーを作成ないし受領するのを可能とする普及行為すべてを意味する。ただし、コンピュータネットワーク越しにユーザとやりとりするだけで、コピーの転送は伴わない場合は、伝達ではない。
ますます多くの商用ソフトウェア製品が登録コードやハードウェアコンポーネントという手段で技術的に頒布を制約しつつある中、1990年代後半には頒布を制約するこれらの手段を回避することを犯罪とする数多くの法案が各国で提出されました。こうしたいわゆる デジタル著作権管理(DRM) は、反対派からはデジタル制約管理と軽蔑的に呼ばれましたが、FSFにとって目の上のたんこぶでした。頒布を制限するこうした手段は、ソフトウェアの自由な頒布と根本的に対立するからです。
このような状況に対応して、GPLv3のソフトウェアはDRMの法律要件を満たさないようにする条項が追加されました(GPLv3ソフトウェアを、自由を制限する形にしてはいけない)。つまり、GPLv3ライセンスのソフトウェアがDRM技術を利用することはできますが、DRMの回避を禁止することはできません(DRMを無効化する改造を違法とすることはできないということです)。
DRMに関する文脈では、ティーボ化(tivoization) という言葉がしばしば用いられます。GPLv3の最初の草案に登場しましたが、最終的には盛り込まれませんでした。この言葉はTiVo社に由来します。同社はデジタルビデオレコーダーにGPLv2ライセンスのソフトウェアを利用しましたが、改変されたソフトウェアをそのレコーダーにインストールして使うことを妨害する技術も組み込みました。FSFの見解によれば、これはGPLの原則に反し、議論の末、GPLv3では、「ユーザ製品」(user product) 段落が挿入されました。GPLv3ライセンスのソフトウェアを使用する製品は、そのソフトウェアの改変方法の情報を提供しなければならないとするのがその中心です。
特許 に関する追加もあります。FSFは、自由と革新を阻害するとして、ソフトウェア特許に対して基本的に反対していて、GPLv3の前文でそのことに言及しています。
最後に、ソフトウェア特許がいかなるフリーのプログラムの存在にも不断の脅威を投げかけていますが、私たちは、フリーなプログラムの再頒布者が個々に 特許ライセンスを取得することによって、事実上プログラムを独占的にしてしまうという危険を避けたいと思います。こういった事態を予防するため、私たちはいかなる特許も誰もが自由に利用できるようライセンスされるか、全くライセンスされないかのどちらかでなければならないことを明確にしました。
ライセンスの本文に従うと、特許保持者とライセンス被許諾者との間の紛争からユーザーを守るために、「非排他的で全世界的に有効、かつロイヤルティフリーのパテントライセンス」をユーザーに授与する場合に限り、特許に基づくコードを(GPLv3ライセンスの)ソフトウェアに含めることが認められます。
AGPL(GNU Affero General Public License)
高速なインターネットへの常時接続が一般的にになるにつれ、ソフトウェアを ASP(Application Service Provider) ベンダーのサーバーにだけインストールして、ユーザーはインターネット越しにサービスを利用する形態が増えてきました。このようなサービスは SaaS(Software as a Service) と呼ばれます。
このような場合に、(サービス提供者がおそらくは改変したであろう)ソースコードを入手可能にしなければならないのかどうかが、GPLv2では不明確でした。GPLv3は、第13条で、FSFが2007年に発行した別のライセンスである GNU AGPLv3 (日本語参考訳) を参照することで、この ASPの抜け穴 を塞ぎました。このライセンスの名前は、先行した2バージョンのAGPLライセンスを作成・公表していたAffero社に由来しています。
AGPLv3は基本的にGPLv3に対応しており、第13条「リモートネットワークインタラクション」でASP問題について明確に規定しています。さらに、GPLv3とAGPLv3ライセンスを制約なしに結合させることができることも明確に述べられています。
要するに、AGPLは、ローカルマシンにインストールせずネットワーク越しにサービスを利用する形態のソフトウェアにコピーレフトを適用することで、GPLを補完しているのです。
コピーレフトライセンスの互換性
フリーソフトウェアは、ほかの人の作品をスタート点として開発を進めることで発展していきます。ほかの人が書いたコードを統合、改変、共有します。改変したコードと新しく書いたコードが全部同じライセンスなら、法的なややこしい問題は生じません。例えば全部GPLv3なら、ソフトウェア全体もGPLv3にするというように、同じライセンスで公開します。
ソフトウェアが異なるライセンスの部品から構成されていると話がややこしくなります。考えなければならないことがいくつかあります。
派生作品
フリーソフトウェアはさまざまな状況下で改造されます。ちょっとしたエラーの解決から、数百万行に及ぶ複雑なコードを追加するプロジェクトまであります。規模に関わらず、ライセンスに関しては、結合 と 派生 を区別します。結合は改変を伴いませんが、派生は改変を伴います。
例えば、ある機能がプロジェクトAに必要だとしましょう。その機能をゼロから開発せず、ちょうどその機能を備えているプロジェクトBのコードを結合させるのは理に適っています。プロジェクトBのコードを変更せずにそのままプロジェクトAに追加します。これが結合です。AとBが同じコピーレフトライセンスであれば、全体を同じライセンスにすれば問題ありません。
AとBが異なるコピーレフトライセンスなら注意が必要です。AとBが結合して一つの作品になっているとしたら、どのライセンスにすればよいでしょうか。あるいは、AとBを別々のままに保つことでライセンスの衝突を避けられるでしょうか。
プロジェクトAが、プロジェクトBのコードを統合してBの機能を利用する派生作品の場合はさらにやっかいです。この場合は新しい派生作品が生み出され、別々のままに保つことはできません。
コピーレフトは派生作品に影響を及ぼします。例えば、AがGPLv3ライセンスなら、互恵性の原則から、新しく生み出された派生作品もまたGPLv3ライセンスにしなくてはなりません。しかし、Bが別のライセンスだったらどうなるでしょうか。BがコピーレフトライセンスでGPLv3と互換性があるかもしれませんし、コピーレフトライセンスではないけれどもライセンスを変更して公開できるかもしれません。あるいは、AとBのライセンスには互換性がないかもしれません。
あらゆる組み合わせとその結果をリストアップすることがこのレッスンの目的ではありません。ここでの主眼は、異なるライセンスを組み合わせることから生じる問題の複雑さを指摘することです。
技術的には、ソフトウェアの各部(先ほどの例で言うところのAとB)がどのように協働しているかをまず明らかにします。各部を切り離すことができるのか、それともどちらかに帰属するのかはっきりと区別できない実行プロセスがあるのかということです。
法的には、AとBのライセンスの関係が問題になります。互換性があるのか、一部に互換性があるのか、一方向だけに互換性があるのか、ライセンスの変更が可能かといったことです。
ここでは問題の複雑さを指摘するにとどめ、解決法は示しません。解決には法的な知識が求められます。したがって、特に派生作品のライセンスをどうするかは、開発の初期に法的な助言を受けて慎重に 決定するのが望ましいことになります。
弱いコピーレフト
コピーレフト、特にGPLv2とGPLv3は、過去数十年にわたり極めて堅固に機能してきました。しかし、技術的な要件の変化により、FSFは何度かライセンスの調整を迫られました。一つは先に触れたAGPLで、もう一つはLGPL(GNU Lesser General Public License)です。以下ではLGPLについて述べます。
LGPL(GNU劣等一般公衆ライセンス)
ソフトウェア開発では、ファイルを開いて保存するといった標準的なタスクを担当する小さなモジュールを使うことがしばしばあります。こうしたモジュールは、ソフトウェアライブラリ と呼ばれます。独立して実行されるアプリケーションではありませんが、実際のアプリケーションに必須のプログラムです。ライブラリのアプリケーションへの統合は リンク と呼ばれます。リンクには2種類の方法があります。
静的リンク では、(補助プログラムや中間的なステップを経て)複数のモジュールのコードを、1つのアプリケーションの実行可能ファイルに取りまとめます。動的リンク では、アプリケーションが必要とするとき、それぞれのモジュールをメモリにロードして利用します。
ここでコピーレフトライセンスに関する疑問が生じます。リンクはライセンスにどう影響するのでしょうか。例えば、このようなリンクという形でコードを引き継ぐアプリケーションは、GPLライセンスのライブラリを利用していれば、アプリケーション全体をGPLライセンスにしなければならないのでしょうか。静的リンクでも動的リンクでも結論は同じでしょうか。
リンクはソフトウェア開発で非常に一般的であり、互恵的なコピーレフトに関する問題は広範囲に及ぶので、FSFは早い段階から、LGPL でリンクを許容するという解決を提示していました。LGPLはGPLのバージョンと同時に改訂されています。バージョン1では GNU Library General Public License という名前でした。この名前から、ライブラリのリンクをどうするかという、このライセンスを考案した問題意識がうかがえます。バージョン2 (日本語参考訳) とバージョン3 (日本語参考訳) では、"Library"の代わりに"Lesser"(「小さい」ないし「劣る」の意)とされ、実践上の理由からコピーレフト原則の制限が弱められているという実情を示す名前になりました。
LGPLライセンスのライブラリは、ソフトウェア全体をコピーレフトでライセンスすることなく使えます。とりわけ、パーミッシブな ライセンス(次のレッスンで取り上げます)で開発されているプロジェクトでは、この妥協から得られる恩恵がとても大きくなります。法的には、パーミッシブなライセンスにGPLのような強いコピーレフトライセンスを統合することはできない(互換性がない)のですが、LGPLのような弱いコピーレフトライセンスならパーミッシブなライセンスに統合できます。
LGPLライセンスはコピーレフトであり、LGPLライセンスのソフトウェア(ライブラリ)を改変した場合には、同じLGPLライセンスで公開しなくてはなりません。
なお、LGPLライセンスのソフトウェアを改変する場合、元のライブラリと交換して同じように使用できるようするための情報を提供する必要があります。
その他のコピーレフトライセンス
その他のFOSSプロジェクトや組織もまた、自分たちの必要性に応じた最善の法的枠組みを探し求め、独自のライセンスを開発しています。Mozilla財団(Mozilla Foundation) がその一例です。1998年に設立され、インターネットブラウザのFirefoxとメールクライアントのThunderbirdという2つのプロジェクトを支援しています。
MPL(Mozilla Public License)のバージョン1は、1998年に公表され、2012年に公表されたバージョン2.0 (日本語参考訳) が現行版です(2024年現在)。
LGPLと同様に、MPLは「弱いコピーレフト」だと言われています。実際のところ、コピーレフトの厳格な要件と商用製品との統合可能性との間のバランスを取ろうとしています。ファイル単位のコピーレフト が特徴的で、MPLライセンスのソフトウェアのファイルに改変を加えたら、その改変したファイル自体をMPLライセンスで提供して入手可能な状態にすれば、プロプライエタリなソフトウェアに統合しても構いません。
弱いコピーレフトライセンスのもう一つの例として、Eclipse財団(Eclipse Foundation)が開発した EPL(Eclipse Public License) が挙げられます。2017年に公表されたバージョン2.0 (日本語参考訳) が現行版で、MPLと非常に似ており、最も「ビジネスフレンドリーな」コピーレフトライセンスだと言われることがあります。ここで言及したもの以外にもさまざまなコピーレフトライセンスがまだまだありますが、法的な違いを出すためというよりも、開発の経緯から生まれたものがほとんどです。
演習
-
GPLは何の略ですか?
-
コピーレフトライセンスが互恵的だと言われるのはなぜですか?
-
ソフトウェアライブラリに適したFSFのコピーレフトライセンスはどれですか?
-
GPLv3では、「頒布(distribution)」の代わりに、どの言葉とどの言葉が導入されましたか? 理由とともに説明してください。
-
以下のコピーレフトライセンスのうち、フリーソフトウェア財団が発行したものをすべて選んでください。
GPL version 3
AGPL version 1
LGPL version 2
MPL 2.0
EPL version 2
発展演習
-
以下のライセンスのうち、コピーレフトライセンスをすべて選んでください。
GPL version 2
3-clause BSD License
LGPL version 3
CC BY-ND
EPL version 2
-
異なる強いコピーレフトライセンスの2つのソフトウェアを結合させて派生作品を生み出すことは、一般的に可能でしょうか? 理由とともに答えてください。
-
以下のライセンスを、強いコピーレフトと弱いコピーレフトに分類してください。
Common Development and Distribution License (CDDL) 1.1
GNU AGPLv3
Microsoft Reciprocal License (MS-RL)
IBM Public License (IPL) 1.0
Sleepycat License
-
弱いコピーレフトライセンスのソフトウェアと、非コピーレフトライセンスのソフトウェアを組み合わせたときに、生じうる互換性の問題を説明してください。
まとめ
このレッスンでは、コピーレフト原則に従うソフトウェアライセンスの特徴を説明しました。1980年代にフリーソフトウェア財団が開発したGPLが、現在最も普及している強いコピーレフトのライセンスです。現行のバージョン3に至るまでに何度か改訂されていますが、基本的な要件は実質的に変わっていません。ライセンスが付与する使用、頒布、改変の自由を、常に維持しなければなりません。つまり、改変したソフトウェアを頒布できるのは、同じ条件(同じライセンス)である場合のみです。
(ライブラリを使って)ほかのプロジェクトと協働する際の法的なしばりのきつさや技術革新に対応するために、FSFは補足的(代替的)なライセンスを開発してきました。LGPL(GNU Lesser General Public License)は、ソフトウェア開発で頻繁に用いられる静的リンクと動的リンクに配慮しています。AGPL(GNU Affero General Public License)は、ソフトウェアをローカルマシンにインストールするのではなく、ネットワーク(インターネット)越しにサービスを利用する形態のソフトウェアが増えてきたという技術的な動向に対応しています。
Mozilla財団やEclipse財団のように、FSF以外にもコピーレフトライセンスを開発しているプロジェクト(組織)があります。両財団は、弱いコピーレフトにより、ライセンスが与える自由を確保しながらほかのライセンスのソフトウェアと統合しやすくするという妥協点を探っています。
原理的に、ライセンスの互換性は、コピーレフトライセンスにまつわる重要な問題です。自由に協働してソフトウェアを開発するという原則が、個々のライセンスが課す法的な条件と調和しなければならないからです。異なるライセンスのソフトウェアを組み合わせるときには、個別の事例に応じて、法的な条件を精査しなければなりません。
演習の解答
-
GPLは何の略ですか?
General Public Licenseの略です。日本語ではGNU一般公衆ライセンスと呼ばれます。
-
コピーレフトライセンスが互恵的だと言われるのはなぜですか?
あるライセンスによって与えられた自由は、ほかの人にも無制約で与えなければならないというのが、コピーレフトの原則です。例えば、GPLライセンスのソフトウェアを改変したら、その改変したソフトウェアをほかの人も同じ条件で利用できる必要があります。これが互恵的だと言われる所以です。
-
ソフトウェアライブラリに適したFSFのコピーレフトライセンスはどれですか?
LGPL(GNU Lesser General Public License)です。日本語ではGNU劣等一般公衆ライセンスと呼ばれます。
-
GPLv3では、「頒布(distribution)」の代わりに、どの言葉とどの言葉が導入されましたか? 理由とともに説明してください。
普及(propagation)と伝達(conveying)です。その背景には、頒布(distribution)という用語は世界中の著作権法で規定されており、矛盾や誤解を避けるために、GPLv3では新しい用語を選んだという理由があります。
-
以下のコピーレフトライセンスのうち、フリーソフトウェア財団が発行したものをすべて選んでください。
GPL version 3
○
AGPL version 1
LGPL version 2
○
MPL 2.0
EPL version 2
発展演習の解答
-
以下のライセンスのうち、コピーレフトライセンスをすべて選んでください。
GPL version 2
○
3-clause BSD License
LGPL version 3
○
CC BY-ND
EPL version 2
○
-
異なる強いコピーレフトライセンスの2つのソフトウェアを結合させて派生作品を生み出すことは、一般的に可能でしょうか? 理由とともに答えてください。
不可能です。強いコピーレフトライセンスは、一般的に、改変したソフトウェアを同じライセンスで公開することを要求し、ライセンスの変更は認められません。よって、この原則を採用している異なる強いコピーレフトライセンスを統合すると、解決できない矛盾が生じます。
-
以下のライセンスを、強いコピーレフトと弱いコピーレフトに分類してください。
Common Development and Distribution License (CDDL) 1.1
弱い
GNU AGPLv3
強い
Microsoft Reciprocal License (MS-RL)
弱い
IBM Public License (IPL) 1.0
弱い
Sleepycat License
強い
-
弱いコピーレフトライセンスのソフトウェアと、非コピーレフトライセンスのソフトウェアを組み合わせたときに、生じうる互換性の問題を説明してください。
強いコピーレフトは改変したソフトウェアを同じライセンスで頒布することを要求しますが、弱いコピーレフトではその条件が緩められています。弱いとはいえコピーレフトですから、ほかのライセンスと組み合わせると互換性に疑問が生じます。この互換性の疑問を解決するには、以下の観点が重要です。新しいソフトウェアの中で2つのソフトウェアをはっきりと分離できるかどうか、異なるライセンスのままにできるかどうか、2つのソフトウェアの連結がどのように行われるか、ソフトウェアコードが直接取り込まれているのか動的にリンクしているだけなのか、2つのライセンスのうち1つでもライセンスの変更を許容しているのか、という観点です。個々のライセンスを綿密に分析し、法律の専門家に相談することで、こうした疑問を解決できるでしょう。