053.1 レッスン 1
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Open Source Essentials |
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1.0 |
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053 オープン コンテント ライセンス |
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053.1 オープン コンテント ライセンスの概念 |
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はじめに
次のような架空の状況を想像してみてください。フランクは、一定の条件下で、自分が書いた物語をインターネットで誰でも利用できるようにしたいと思っている作家です。商用利用を禁止しつつ、クレジット表記をすれば誰でも無料かつ許諾照会なしで物語を利用できるようにしたいと考えています。複雑な法的手続きを行わずにこれを実現したいです。作家がなぜこのような希望を抱くかについてはあとで触れます。
エマは短編映画の制作方法を学生に教えている映像作家です。生徒たちは映画の原作を必要としています。エマはフランクの物語がぴったりだと思っています。
エマに自分の物語を使ってもらうためにフランクはどうすればよいでしょうか。今ではこうした状況を解決するために、オープン コンテント ライセンス モデルが利用できます。現在、オープン コンテント ライセンスのおかげで、何百万もの著作権で保護されている作品を、誰でも著作権者からの個別の許諾もライセンス料も不要で利用できます。オープン コンテント ライセンスを利用しているプラットフォームの例として、Wikipedia、Flickr、OpenStreetMap、Unsplash、Jamendoなどが挙げられます。
オープンコンテント を広く定義すると、著作権法の下で自由に利用し再頒布できる作品すべて(映画、音楽、画像、文芸作品、データベース、データセット、文書、地図、ハードウェアのデザインなど)を指します。著作権が切れてパブリックドメインに入った作品も含まれます。オープンコンテントを狭く定義すると、許諾も料金も不要で利用し頒布できるように、著作者が明示的にオープン コンテント ライセンスにした作品を指します。オープン コンテント モデルは、著作権に相対するのではなく、著作権を補完するものです。
著作権の基礎
オープン コンテント ライセンスは著作権に基づいていますから、そのライセンスの必要性と内容を理解するために、ここで著作権法を理解しておきましょう。
著作権は 知的財産権 の一種です。著作権は、作品がどのように利用されるかをコントロールする排他的な法的な権利を著作者に与えることにより、作品を保護します。一般的に、「作品の受容」(例えば絵を見る、音楽を聴くといった自然に受け容れることを言います)以外のあらゆる行為(複製、頒布、上演、改変などの行為)を、著作権者の許諾なしに行うことはできません。
この節では、まず何が著作権の対象となるのかを理解し、次いで現実的に(先ほどの例でエマが望んでいたように)作品を再利用するために誰がどのような許諾を与えるのかを取り上げます。
世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization)は著作権について次のように述べています。
著作権は二種類の権利を保護します。著作物の利用から金銭的な報酬を権利者が得る財産権と、自分の作品とのつながりを保護するために著作者が所定の行為を行うための人格権の二種類です。財産権は、著作者に属していることもあれば、別人に譲渡されることもあります。多くの国で人格権は譲渡できません。著作権は事実やアイデアの 表現 を保護するのであって、著作権者といえどもアイデアを排他的に所有したりコントロールしたりすることはできません。例えば、説明文は著作権の保護対象になり得ますが、そこで説明されているアイデアは保護対象になりません。 (日本語訳および太字による強調は本レッスンの訳者による)
Understanding Copyright and Related Rights
財産権は、著作者の死後数十年にわたり、著作権で保護されます。人格権は、(少なくとも著作者の存命中は)消滅することがありません。
著作権は、一定の創作性基準を満たす文芸や美術などの 作品 に発生する権利です。作品は原作でなければならず、コピーに著作権は発生しません。(どの程度人工知能を使うと原作であると認められなくなるかについては、議論がされているところです。)
著作権は、事実やアイデアの表現を保護します。著作権者がアイデアを排他的に所有してコントロールすることはできません。例えば、説明文は著作権の保護対象になり得ますが、そこで説明されているアイデアは保護対象になりません。(訳注:アイデアを保護するのは特許権です。)
デジタルアートや楽曲などの作品は、具体的な形に固定されたときに自動的に著作権が発生します。作品を公的機関に登録したりしなくても、制作者に権利が与えられます。
オープン コンテント ライセンスを推進する人たちは、自由な文化とデジタルコモンズ(デジタル共有財)の促進を願っています。現行の著作権制度は、利用者と制作者の双方にとって、あまりにも制限が多すぎて融通が利かないと考えています。オープンコンテントの提唱者は、使いやすい標準的なライセンスを設定することで、著作権によって保護される作品の利用と頒布を容易にしています。
著作物
著作権法は国によって異なりますが、著作権法を標準化する国際的な合意が存在します。文学的及び美術的著作物の原作は著作権法の保護対象になります。例えば、美術、音楽、写真、映画、映像、文芸、プログラミングなどの著作物です。著作物の範囲や原作と認められるために必要な創作性の程度を定める細かいルールは、地域によって異なります。
こうした著作物のカテゴリーは一般的な総称であり、著作権の保護対象になるかはケースバイケースです。例えば、短編映画は美術的著作物として著作権の保護対象になるでしょうが、短編映画の一場面を切り取った写真は創作性の基準を満たさず著作権の保護対象にならないかもしれません。
派生作品
このレッスンの冒頭で紹介した架空の状況の話を続けましょう。フランクは、自分が選んだ条件で作品を利用してもらえるように、自分の書いた物語をオープン コンテント ライセンスで公開することに決めました。このライセンスのおかげで、エマは自分の授業でフランクの物語を使うことができ、その物語をもとにして作られた生徒たちの短編映画を映画祭で上映することにしました。この場合、生徒たちが作った短編映画は、派生作品(二次的著作物) になります。
派生作品(翻案 することにより創作した著作物)は、既存の作品をもとにした作品で、翻訳、編曲、戯曲化、小説化、映画化、録音、原画複製など、原作を変形したあらゆる作品がそこに含まれます。派生作品は第一の原作から独立した第二の作品です。(一次的な原作のコピーではなく)二次的な原作として著作権によって保護されるためには、原作を実質的に変形、改変、翻案しなければなりません。
オープン コンテント ライセンスに共通する特徴
すべてのオープン コンテント ライセンスは著作者の権利を全面的に尊重しており、著作者からのライセンスを得ない限り、すべての作品利用は著作権侵害になるという立場を取っています。つまり、オープン コンテント ライセンスは、著作権制度と対立するのではなく、世界的な著作権制度の範囲内で機能するものです。
オープン コンテント ライセンスは、適切なクレジット表記が作品の著作者に与えられることを求めます。作品を第三者に頒布するのであれば、原著作者のクレジット表記をしなければなりません。元の作品を改変した派生作品であれば、原著作者と原作(タイトルや出典)を示す必要があります。
作品の利用に制約を課すほとんどの著作権のライセンスとは異なり、オープン コンテント ライセンスでは、ユーザーに所定の自由が権利として与えられます。作品を複製して頒布するといった権利は、ほぼすべてのオープン コンテント ライセンスに共通して認められるものです。ライセンスによっては、作品を改変して派生作品を生み出す権利や、上演、展示、派生作品を頒布する権利が認められます。
オープン コンテント ライセンスを活用すると、派生作品をコントロールできます。オープン コンテント ライセンスでは、通常、派生作品を生み出してどのようなメディアででも頒布する権利が認められています。ある人がオープン コンテント ライセンスで絵画を公開したとすると、その絵画を別の作品の題材にすることができます。こうした派生作品を元の作品と同じようにほかの人が自由に使えるようにするという条件で、派生作品を制作し頒布する許諾を与えることができます。
オープン コンテント ライセンスは、通常、派生作品が元の作品と同じオープン コンテント ライセンスの条件で公開されることを求めます。ただし、この義務は、作品を編集するという行為には当てはまりません。例えば、歌のアルバムを作るとして、その中にオープン コンテント ライセンスの歌が1曲あったとしても、そのアルバムに収録する歌を全部オープン コンテント ライセンスにしなければならないというわけではありません。
作品の商用利用をどう扱うかという別の重要な観点もあります。自分の作品を非営利目的での利用に限りオープン コンテント ライセンスにする人もいれば、商用利用も含めてオープン コンテント ライセンスにする人もいます。
オープン コンテント ライセンスは、作品から収益を上げることを禁止するものではありません。非営利目的での利用に限るオープン コンテント ライセンスの作品であっても、著作権者と合意をすれば商用利用できます。言い換えると、作品の利用を非営利目的に限定して公開したあとでも、その非営利目的での利用が認められ続けるなら、著作者が著作権を営利事業者に売ることができます。
オープン コンテント ライセンスの重要性
オープン コンテント モデルにはどのような利点があり、自分の作品を伝統的な著作権モデルによらずオープン コンテント ライセンスで頒布する人がいるのはなぜなのでしょうか。
オープン コンテント ライセンスの作品は、オープン コンテント ライセンスでない通常の著作権によって保護される作品に比べると、流通範囲が広がります。よって、新参のアーティストにとって、こうしたライセンスには、有名になり認知が広がるという利点があります。あらかじめ一定の条件のもとで万人に対して作品の自由な利用を認めることで(作品の利用を認める対価として得られるであろう収益を断念することで)、制作者は、より多くの出演機会やスポンサーや協力を得られるかもしれません。
インターネット時代においては、制作者が出版社等の第三者を介さずに直接自分の作品を公開できるようになったので、オープン コンテント ライセンスが実践的になりました。例えば、写真家は自分が撮った写真を個人のウェブサイトで公開できます。このようにすれば、代理人やギャラリーと契約せずとも、一般の人たちに認知してもらえます。
適切なライセンスを選べば、作品を最大限普及させつつ商用利用を制御できます。商用利用したい人が現われれば、制作者はその人に許諾を与えるか与えないかを自分で決められます。ほかの人には商用利用を禁止しても、著作権者自身が商用利用を行うことに制限はありません。
作品を広く普及させることは別にしても、オープン コンテント ライセンスは、ユーザーが作品を利用する際の法的な安定性を高め、取引コストを削減します。
著作権の譲渡やライセンス料の徴収とは異なる方法で資金調達を行うアーティストやクリエイターも少なくありません。作品をパーミッシブライセンスで公開する前にクラウドファンディングで資金を集める制作者がたくさんいますし、コンテンツそのものはフリーで公開して印刷版やメンバー専用ウェブサイトに課金する制作者もいます。
オープン コンテント ライセンスでは、作品をどのメディアでも誰に対しても頒布できます。ウェブサイトに載せようが、複写しようが、CDに書き込もうが、本に載せようが構いません。
オープン コンテント ライセンスを利用すると、著作者とユーザーとの間のライセンスを自動的に設定できます。オープン コンテント ライセンスを利用しない場合では、(著作者以外のユーザーが管理しているウェブサイトに載せるなどして)作品をオンラインで頒布するときに、個別契約による合意が必要になるのが一般的です。
商標権と著作権
商標権は、著作権と同様に知的財産権の一種です。しかし、商標法と著作権法は異なります。商標権は、商品やサービスをほかの商品やサービスから区別するために用いられる、ブランド名、ロゴ、シンボルマーク、音、色などの、 ブランド を保護します。自分たちのサービスや製品を別のサービスや製品から区別して販売を促進するために用いられる特別な要素が商標になり得ます。
商標権者は、一般的に、公衆が混乱するような形での商標の使用の差し止めを請求できます。商標法は、商品やサービスの生産者の評判を保護するとともに、類似した商品やサービスを簡単に見分けられるようにすることで公衆を保護します。
商標は登録を受けてから保護されるのが原則です。需要者に広く認識されている商標は未登録でも保護されることがありますが、登録を受けた商標と同じような法的保護が得られるわけではありません。そのため、多くの企業が商標を登録しています。
著作権と商標権は同時に存在し得ます。例えば、Wikipediaは登録商標であると同時に、そのロゴは美術的著作物の原作として著作権法でも保護されています。
演習
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オープン コンテント ライセンスを利用すると著作権を回避できますか?
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オープンコンテントとは何ですか?
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派生作品とは何ですか?
発展演習
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同じ権利条件で再頒布する限り目的を問わず利用できるようにしたければ、どのように作品を公開すればよいでしょうか?
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オープン コンテント ライセンスの作品をもとにした派生作品を営利目的で頒布することはできますか?
まとめ
このレッスンでは、以下の事柄を学習しました。
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著作権法の基礎
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著作権で保護される著作物
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派生作品
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オープン コンテント ライセンスに共通する特徴
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オープン コンテント ライセンスの種類
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オープン コンテント ライセンス モデルの重要性と利点
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著作権と商標権
演習の解答
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オープン コンテント ライセンスを利用すると著作権を回避できますか?
オープン コンテント ライセンスを利用しても著作権を回避することはできません。オープン コンテント ライセンスは、著作権者の排他的な権利を保持しつつ、一定の条件のもとでユーザーに一部の権利を認める著作権ライセンスの一種です。
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オープンコンテントとは何ですか?
オープンコンテントとは、オープン コンテント ライセンスで公開された作品のことです。映画、音楽、画像、文芸作品、データベース、文書、地図、ハードウェアのデザインなどの制作物(作品)です。オープン コンテント ライセンスの作品は、著作者から個別の許諾を得なくても、使用、再頒布、派生作品の制作、営利目的または非営利目的での利用ができます。
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派生作品とは何ですか?
派生作品は、翻案とも言いますが、原作を変形して制作した作品のことです。翻訳、編曲、戯曲化、映画化、録音、原画複製などが派生作品の例です。
発展演習の解答
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同じ権利条件で再頒布する限り目的を問わず利用できるようにしたければ、どのように作品を公開すればよいでしょうか?
コピーレフトライセンスで作品を公開します。そうすれば、派生作品を同じライセンスか互換性のあるライセンスで公開しなければならなくなります。
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オープン コンテント ライセンスの作品をもとにした派生作品を営利目的で頒布することはできますか?
元の作品のオープン コンテント ライセンスの種類によります。派生作品を営利目的で利用できると書かれているライセンスであれば可能です。