105.2 レッスン 1

スクリプトファイルとは、対応するインタープリタによって実行されるコマンドの並びを内容とするファイルです。インタープリタがスクリプトを読み取る方法はさまざまですが、シェルセッションとはまったく異なります。スクリプトファイルの先頭には文字 #! （シェバン と読みます）が置かれていて、その後に続く文字列がインタープリタです。Bashスクリプトの場合は、最初の行が #!/bin/bash になり、続くすべてのコマンドは /bin/bash によって解釈されます。ハッシュ文字 # で始まる行は無視されるので、コメントや覚え書きを置くために使用します。空白行も無視されます。最も簡単なシェルスクリプトは次のようになります:

このスクリプトには、/bin/bash によって解釈される2つの命令のみがあります。組み込みコマンド echo と、通常コマンド date です。スクリプトファイルを実行する最も基本的な方法は、スクリプトファイルのパスを引数としてインタプリタを実行することです。つまり、この例が現在のディレクトリの script.sh という名前のファイルに保管されている場合は、次のコマンドで実行します:

echo コマンドは文字列を表示した後に改行を出力しますが、オプション -n でこの動作を抑止できます。つまり、スクリプトで echo -n を使用すると、両方のコマンドの出力が同じ行に表示されます。

必須ではありませんが、ファイル名にサフィックス .sh を付けておくと、一覧や検索の際にシェルスクリプトを識別しやすくなります。

他のユーザーにスクリプトを実行させることがある場合は、適切なパーミッションが設定されていることが重要です。コマンド chmod o+r script.sh は、システム内のすべてのユーザーに読み取り権限を与えて、コマンド bash の引数にスクリプトファイルのパス名を指定することで script.sh を実行できるようにします。あるいは、スクリプトファイルに実行パーミッションをセットして、通常のコマンドのようにファイルを実行できるようにします。スクリプトに実行パーミッションをセットするには、コマンド chmod を使用します。

実行パーミッションを有効にすると、現在のディレクトリにある script.sh という名前のスクリプトファイルを、コマンド ./script.sh で直接実行できます。PATH 環境変数にリストされているディレクトリにスクリプトファイルを置けば、パスがなくても実行できます。

シェルスクリプトのファイルでは、コマンドのインデントや書き方はそれほど厳密ではありません。スクリプトのすべての行は、先頭行から順に、普通のシェルコマンドとして実行されます。また、コマンドラインと同じルールが行毎に適用されます。例えば、2つ以上のコマンドをセミコロンで区切って同じ行に続けることができます。

この形式が便利な場合もありますが、1行に1つずつコマンドを置けばセミコロンで区切ったのと同じように続けて実行されるので、ほとんど使われません。つまり、Bashスクリプトファイルではセミコロンを改行文字に置き換えることができるのです。

スクリプトが実行されると、そこに含まれるコマンドは現在のセッションで直接実行されるのではなく、サブシェル と呼ばれる新しいBashプロセスによって実行されます。それにより、スクリプトが現在のセッションの環境変数を上書きしたり、現在のセッションに意図しない変更を残したりするのを防ぎます。現在のシェルセッションでスクリプトの内容を実行したい場合は、source script.sh ないし . script.sh（ドットとスクリプト名の間にスペースがあることに注意してください）を使って実行します。

通常のコマンド実行と同様に、スクリプトが実行を終えるまで、シェルプロンプトには戻りません。そして、その終了ステータスコードを $? 変数で参照することができるようになります。この動作を変更して、現在のシェルでスクリプトを実行したい場合は、スクリプト（ないしその他のコマンド）の前に exec コマンドを置きます。こうすると、スクリプトの実行が終了すると、現在のシェルが終了しますから、ログインシェルから実行した場合はログアウトしてしまうことになります。

シェルスクリプトの変数は、対話セッションと同じように機能します。たとえば、SOLUTION=42（等号の前後にスペースを入れない）と書くと、SOLUTION という名前の変数に値 42 を割り当てます。変数名には大文字を使用することが慣例ですが、必須ではありません。なお、変数名をアルファベット以外の文字で始めることはできません。（訳注: 日本語は使用できません。）

Bashスクリプトでは、ユーザーが定義する通常の変数だけではなく、特殊変数 と呼ばれる特別な変数も使えます。通常の変数とは異なり、特殊変数の名前は記号1文字ないし数字です。スクリプトに渡される引数やその他の有用な情報が、0、*、? などの特殊変数に格納されます。ドルマークに続けてこれら変数の値を参照すると、以下の情報が返されます:

位置変数 は、0 以外の1桁以上で示されるパラメータです。たとえば、変数 $1 はスクリプトに指定された最初の引数に対応し、$2 は2番目の引数に対応します。パラメータの位置が9より大きい場合は、${10}、${11} などのように、波括弧（中括弧）で囲みます。

一方、通常の変数には、スクリプト内でセットした値や、他のコマンドの出力を格納します。たとえば、コマンド read をスクリプト内で使用すると、スクリプトの実行中にユーザーに入力を求めることができます。

入力された値が変数 ANSWER に格納されます。変数名が指定されていない場合は、デフォルトで変数 REPLY が使用されます。コマンド read を使用して、複数の変数を同時に読み取ることもできます。

この例では、変数 NAME と SURNAME に、空白で区切られた単語のそれぞれが割り当てられます。入力された単語の数が変数の数よりも多い場合、残りの単語は最後の変数に（空白で区切られて）格納されます。read のオプション -p を使用してユーザーに表示するメッセージを指定できるので、この例の echo コマンドは冗長です。

システムタスクを実行するスクリプトは、多くの場合、他のプログラムによって提供される情報を利用します。バッククオート を使うと、コマンドの出力を変数に格納することができます。

この例では、コマンド uname -o の出力が、変数 OS に格納されます。$() でも同じ結果が得られます。

変数名の前にハッシュ # を付加すると、変数の長さ、つまり変数に含まれる文字数が返されます。ただし、この機能を使うときは、変数を明示するために波括弧を使用します。

Bashでは1次元配列を格納する変数も使えるので、関連する複数の要素を1つの変数に格納できます。配列の各要素は数値のインデックスを使って読み書きします。通常の変数とは異なり、配列はBashの組み込みコマンド declare で宣言する必要があります。たとえば、SIZES という名前の変数を配列として宣言するにはこうします:

括弧を使った表記法で項目のリストを定義すると、配列を暗黙的に宣言することもできます。

この例では、2つの大きな整数値が SIZES 配列に格納されます。配列要素を参照するには、波括弧と角括弧を使用します。配列のインデックスは0から始まるため、最初の要素の内容は ${SIZES[0]} に、2番目の要素は ${SIZES[1]} にあります。

配列要素への代入は、読み取りとは異なり、波括弧なしで指定します（たとえば、SIZES[0]=1048576）。通常の変数と同様に、配列内の要素の長さをハッシュ文字で参照できます（たとえば、SIZES 配列の最初の要素の長さは ${#SIZES[0]} となり、この例では7です）。インデックスに @ または * を指定すると、配列内の要素数が返されます。

また、コマンド置換を利用することで、コマンドの出力を初期要素とする配列を宣言することもできます。次の例は、現在のシステムでサポートされているファイルシステムを要素とする配列を作成する方法を示しています:

コマンド cut -f 2 < /proc/filesystems は、（/proc/filesystems ファイルの2列目の列にリストされている）実行中のカーネルで現在サポートされているすべてのファイルシステムを出力します。そのため、FS 配列には、それぞれの要素に1つのファイルシステムが含まれます。デフォルトでは、空白文字（空白、タブ、改行）で区切られた単語が配列要素になりますので、さまざまな形式のテキストを使用して配列を初期化できます。

Bashでは、組み込みコマンド expr を使用して、実用的な整数算術演算を行えます。たとえば、$VAL1 と $VAL2 の2つの数値変数を足すには、次のコマンドを使います。

例では、結果の値が $SUM 変数に格納されます。コマンド expr は $(()) に置き換えることができるので、前の例は SUM=$(( $VAL1 + $VAL2 )) と書き直すことができます。二重アスタリスク演算子は累乗を表すので、前の配列宣言 SIZES=( 1048576 1073741824) は SIZES=( $((1024**2)) $((1024**3)) ) と書くことができます。

算術式でもコマンド置換が使えます。ファイル /proc/meminfo には、RAMの空きバイト数などシステムメモリに関する詳細情報が含まれていますので例に取り上げましょう:

この例では、算術式の内部で sed コマンドを使い、/proc/meminfo の内容を解析しています。/proc/meminfo ファイルの2列目には、キロバイト単位の空きメモリ量がありますから、算術式でその数値に1000を掛けて、RAMの空きバイト数を取得します。（訳注: sedで2行目（MemFree）だけを取り出し、数値以外の文字を取り除いていることに注意してください。）

スクリプトの中には、スクリプトファイル内のすべてのコマンドを実行するのではなく、あらかじめ定義した条件に一致するコマンドのみを実行するものがあります。たとえば、保守用のスクリプトでは、コマンドの実行に失敗した場合にのみ、管理者にメールで警告メッセージを送信します。Bashにはコマンド実行の成否を評価することに限定した方法と、一般のプログラミング言語に見られるような汎用的な条件実行の方法が用意されています。

コマンドを && で区切ると、左側のコマンドでエラーが発生しなかった場合、つまり終了ステータスが 0 の場合にのみ、右側のコマンドが実行されます。（訳注: && は AND を示す条件演算子です。1つでも失敗するコマンドが現れた時点で結果が False に決まりますから、後続のコマンドを実行する必要が無くなる、というワケです。）

コマンドを || で区切ると、動作が逆転します。すなわち、左側のコマンドでエラーが発生した場合、つまり終了ステータスが0ではない場合にのみ、右側のコマンドが実行されます。（訳注: || は OR を示す条件演算子です。1つでも成功するコマンドが現れた時点で結果が TRUE に決まりますから、後続のコマンドを実行する必要が無くなる、と言うワケです。）

すべてのプログラミング言語において、あらかじめ定義した条件に応じてコマンドを実行することは、最も重要な機能の一つです。条件に応じてコマンドを実行する最も簡単な方法は、組み込みコマンド if を使うことです。これは、引数に与えられたコマンドがステータスコードに0（成功）を返す場合にのみ、ブロック内の1つないしは複数のコマンドを実行します。さまざまな条件を評価することができる test コマンドが用意されていて、ほとんどの場合は if と test を組み合わせて使用します。次の例では、ファイル /bin/bash が存在して実行できる場合に Confirmed: /bin/bash is executable. というメッセージを表示します。

test コマンドに -x オプションを指定すると、与えられたパスが実行可能なファイルである場合にのみ、ステータスコード 0 を返します。次の例では、test の代わりに角括弧を使い、まったく同じ結果を得る別の方法を示しています。（訳注: セミコロンの位置に注意してください。] までが、[ コマンドの引数になります。[ コマンドは、if ブロックを見やすく書くために用意された、test コマンドの特別な呼び出し方法です。）

else コマンドは if ブロックのオプションであり、存在する場合は、条件式が真でない場合に実行する一連のコマンドを定義できます。

Bashインタープリタが条件ブロックの終了を判断できるように、if ブロックは常に fi で終わる必要があります。

ファイル操作のみを行う含むスクリプトであっても、進捗に関するメッセージを標準出力に表示することは重要です。ユーザーに問題を知らせられますし、そのメッセージをログとして残すこともできます。

Bashの組み込みコマンド echo は、単純な文字列を表示するためによく使われますが、いくつかの拡張機能も備えています。-e オプションを指定すると、エスケープシーケンス (バックスラッシュと1文字) を使って特殊文字を表示できます。例えば、以下のようになります:

オプションなしの echo では引用符を使わなくても構いませんが、オプション -e を使用する場合は引用符で囲む必要があります。前のスクリプトでは、両方の echo コマンドでテキストの位置を合わせるためにタブ文字 \t を使用して、次のような出力にしています:

改行文字 \n を使用すると出力行を区切ることができるので、2つの echo コマンドを1つに結合してもまったく同じ出力が得られます。

ほとんどのテキストメッセージの表示は echo コマンドで充分ですが、厳密な書式が必要となる場合があります。Bashの組み込みコマンド printf を使用すると、変数の表示方法をより細かく制御できます。printf コマンドでは、最初の引数に出力書式を指定します。コマンドラインに指定された順序で、プレースホルダが引数に置き換えられます。たとえば、前の例のメッセージを、次の printf コマンドで生成できます。

テキスト用のプレースホルダ %s が $OS 変数の内容で置き換えられ、整数用の %d プレースホルダが RAM内の空き容量（メガバイト単位）に置き換えられます。printf はテキストの最後に改行文字を追加しないので、必要に応じて改行文字 \n を出力書式の最後に置く必要があります。パターン全体を単一の引数として解釈する必要があるので、引用符で囲みます。

printf では、書式を示す文字列と、出力に埋め込む変数が独立しています。すなわち、書式を示す文字列を別の変数に格納することもできます。

この方法は、ユーザーの要件に応じて出力形式を変更する場合に特に便利です。たとえば、何種類かのCSV（カンマ区切り）リストを出力する場合に、種類ごとに書式文字列を切り替えて表示するスクリプトを簡単に作成できます。